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2018/07/5

平成30年 環境生活委員会 7月終日委員会 「北海道アイヌ生活実態調査について」

この質問の趣旨は、北海道を中心として栄えたアイヌ文化を、今を生きる私たちや子供たちが、私たちの北海道の強みや誇りとして活用していかなければならないことを核として、委員会で議論させていただいたものです。

将来に渡って、北海道に多くの皆さんに訪れて頂かなければならない私たちは、これまでに拘り過ぎて、機会を失うことがあってはなりません。

この機会を通じて、私たちが遺す北海道の目指す姿の一つを明らかにしていきたいと考えています。

 


 

A,北海道アイヌ生活実態調査について

それでは、道が、前回委員会で公表した北海道アイヌ生活実態調査について伺っていきます。この件については、本定例会の一般質問で同僚議員が取り上げたところですが、この場において、更に背景に迫っていきたいと考えております。

この調査は、国が2020年の制定を目指していると報道されているアイヌ新法の参考資料とするために、予定を早めて昨年11月に行ったものと聞いています。
その結果は、前回委員会で配布されていることから詳しくは触れませんが、新聞等でも報道されているところです。総数が、63市町村に13,118人、5年前の調査時より3,668人、22%程度減少し、11年前となる前々回の調査時より10,664人、45%程度も減少していることになります。これは総数の動態調査の傾向として、特に注目すべき点であることは明白です。
その他にも、生活保護受給世帯の減少や、大学進学率の向上など、その実態の改善が数値として明らかになってきていることは、これまでの施策の効果の表れ、改善していると理解することができると考えています。

① アイヌの人口について
まず、アイヌの人口について伺います。
道は、人口の総数について、減っているわけではないと捉えているようですが、何を根拠にしているのでしょうか。
報道等によると、道は、個人情報保護の意識が高まり、調査協力を依頼した自治体が把握しにくくなっていることが背景にあるとされているようです。
もし、調査に表れた程に大きく変わっていないとするならば、個人情報保護による背景も少なくはないと思われますが、アイヌ文化振興法や新法制定に向けた機運の醸成の効果として生活向上の実現が果たされてきた、同時に、これまでの施策効果や新法効果には期待していないことの表れとして捉えることが出来ます。
それは、差別等によりアイヌであることを隠す必要があるからなのではなく、現代においてアイヌと名乗ることの必要やメリットを感じないようになった表れなのではないでしょうか。
よって、今回の生活実態調査を通じて見えてきたことは、アイヌの人たちの総数が事実として大幅に減ってしまったのではなく、アイヌの人たちの意識が大きく変化してきていると捉えることが妥当なのだと考えます。
とりわけ11年で45%ものアイヌの人たちの減少が確認できたという事態は、新法制定そのものに大きく影響させなければならないものであると考えることが自然の流れでもあります。
なお、アイヌの人たちの人口が減っていくことは否定できるものではありません。この先四半世紀、半世紀という単位で、その実数が激減することは明らかです。
改めて、総数の激減についてと、今後の見通しについての道の認識を伺います。

<答弁>
「アイヌ生活実態調査」の対象者数についてでありますが

 〇 調査対象者数の減少については、調査に協力いただいている
  アイヌ協会の会員が、高齢化などにより減少していることや、
  地方から都市部への転出によりその後の動向把握が難しくなったこと、
  また、個人情報保護に関する意識の高まりにより、
  調査への協力者が減っていることなどが、
  その要因と考えているところ。

 〇 道としては、今後も同様の傾向が見込まれるものと考えているが、
  今後の調査にあたっては、アイヌの人たちをはじめ、
  関係市町村などに調査の趣旨を十分にご理解いただくとともに、
  アイヌの人たちがおかれている現状やニーズを、
  より正確に把握できるよう、国やアイヌ協会のご意見を
  お聞きしながら、調査方法や内容などについて、検討してまいる。

② 差別意識の誤差について
次に、差別意識の誤差について伺います。
今回の調査では、生活保護受給者数や大学進学率で改善がみられたと報告がありました。この点のみを取り上げて改善が成し得たと判断するには早計でありますが、明らかに生活が向上していることの証左であると受け止めることが自然です。
そもそも格差とされている「差」は、誤差の範疇と判断できるものであって、日本におけるそれらの平均と許しがたい「差」があるとは読み取れません。それでも、道が、差があるとする分析からは、むしろ、そうしておかなければならない背景が透けて見えてくるのです。
また、その調査方法については、厚生労働省や道の補助を受けた市町村による生活館運営費等予算の中で雇用されて嘱託職員となる「生活相談員」などが調査にあたっているとお聞きしましたが、普段から近しく接している方々による調査であるのですから、むしろ個人情報保護の垣根を超えた如実な情報として捉えることが自然です。今の生活に不自由を感じていないことの表れと言えるのでしょう。

道が、それでも「いわれのない差別があるということが結果に表れている」と格差が今なお存在していると論ずる根拠はどこにあるのでしょうか、見解を伺います。

<答弁>
差別に対する認識についてでありますが

 〇 今回の調査結果では、「差別を受けたことがある」と
  「自分はないが、他人が受けたのを知っている」の割合を合計すると、
  前回調査と比べ、3.3パーセント増の36.3パーセントとなっており、
  約3人に1人が自分又は他人が差別を受けた経験を有していることが
  明らかとなったところ。

 〇 また、「差別を受けたことがある」と
  「自分はないが他人が受けたのを知っている」と回答した方々に、
  どのような場面で差別を受けたかを聞いたところ、
  「学校」や「職場」、「結婚のこと」などで、
  差別があったという回答が多かったところであり、
  道としては、こうした結果からも、いまだ、
  アイヌの人たちに対する差別は存在していると認識している。

<指摘>
 私は、この質問で、表れている「差」は許容範囲だと申し上げています。その「差」とは、差別のことではありません。実態調査で明らかになった数値の「差」は、許容範囲であると申し上げているのです。
 一方で、私たちの世界に差別が存在していい理由はどこにもありません。差別が存在するならば、無くす努力を止めることはできません。
しかし、残念ながら私たちの世界からは差別が無くならないことを知っておく必要があります。それが無い状態を目指す必要はありますが、それを無くすことができるものとして取り組むことには無理があります。
 差別には、いろいろな差別が存在します。例を挙げることは憚りますが、この質問で取り上げているアイヌの人たちへの差別だけではないことは確かです。
 誤解のないように付け加えておきますが、他の差別も存在しているのだから、アイヌの人たちの差別も致し方ないと断じているのではありません。
 私たちは、差別の解消に努める必要がありますが、同時に、差別に甘えることがあってもならないのだと考えています。それは、私たち日本国民の道徳性や倫理性につながっていることでもあるのです。
 私が、ここで指摘しておきたいことは、差別を無くす努力を続けると共に、文化振興によるアプローチで差別を無くしていく、減らしていくことが可能であると考えています。
 民族共生象徴空間の設立が間近になってきた今だからこそ、道は、その機会を的確に活用していかなければならないのだと考えています。
 道やアイヌの人たちにおいては、「差」や「差別」を理由にして生活向上策を混ぜ込んでおくことを優先させるのではなく、文化振興に比重を置いた施策の展開によって、地位の確保や元気で豊かな暮らしを実現させていただきたいと願っております。

③ 北海道アイヌ協会の対応について
次に、北海道アイヌ協会の対応について伺います。
報道によれば、道アイヌ協会の幹部が、今回の調査について「これでは実態調査とは言えない」と発言されています。
これは、いずれの立場からの発言であるのか理解に苦しむところでありますが、生活が改善していることを受け入れられないのか、または、総数の激減を受け入れられないのか、さまざまに推測することができます。都合が悪い調査は受け入れられないとすることは、未来志向の対応とは思えないのであります。
しかし、協会が掲げる「先住民族アイヌの尊厳を確立するため、人種・民族に基づくあらゆる障壁を克服し、その社会的地位の向上と文化の保存・伝承及び発展に寄与すること」とされている崇高な目的から俯瞰すると、調査結果が真の姿であるならば、道は、アイヌ文化振興法並びにアイヌ新法の本来の目的である「文化振興」に比重を置いた改正を実現させていくことが本筋であるともいえるのではないでしょうか。
道は、北海道アイヌ生活実態調査の結果について、北海道アイヌ協会と正しい認識を一にしなければならないと考えますが、道の見解を伺います。

<答弁>
アイヌ生活実態調査の結果についてですが

 〇 今回の調査は、本道のアイヌの人たちの生活実態を把握し、
  生活向上に関する推進方策を策定するため、
  必要な基礎資料を得るとともに、
  現在、国が進めているアイヌ政策の再構築に向けた
  総合的な施策の検討にも協力するため、実施したところ。

 〇 本調査の実施に当たっては、
  アイヌの人たちの暮らしや仕事などに関する課題やニーズを
  的確に把握できるよう、調査の準備段階から、国やアイヌ協会などと、
  質問内容や実施方法などについて協議を行ってきたところ。

 〇 道としては、国における新たな立法措置の検討に際し、
  今回の道の実態調査の結果などを踏まえるとともに、
  アイヌの人たちの十分な理解を得ながら進めていただくことが
  重要と考えており、アイヌ協会の一部からの今回の発言についても、
  その趣旨をお伺いするなど、アイヌ協会との間で
  認識の共有を図りながら、国に働きかけてまいる考え。

④ 民族共生象徴空間について
次に、民族共生象徴空間について伺います。
今回の調査の中で、特に驚いた結果が表れていたのは、なにも総数だけではありません。象徴空間を「あまり知らない」や「知らない」と答えたアイヌの人たちが55%も居るという事実です。アイヌ文化の保存伝承を切望するアイヌの人たちの半分以上が、開設を2年後に控える民族共生象徴空間の認識の低さに驚いています。
アイヌ文化振興法に基づき様々な取組みが進められる中、アイヌ文化の保存伝承を実現させる権威として設置される本施設が、アイヌの皆さんの総意となっていないとも捉えることが可能となってしまいます。
これは、国や道をはじめとして、各自治体、そして北海道アイヌ協会等当事者の努力が足りていないことを示しているのではないでしょうか。
この実態調査結果を踏まえて、観光客誘致へ向けての努力と共に、アイヌの人たちへの目的の周知も充実させなければならないと考えます。道の見解を伺います。

<答弁>
民族共生象徴空間の周知についてでありますが

 〇 象徴空間は、アイヌ文化の復興等に関する
  ナショナルセンターとして整備されるものであり、
  その運営に当たっては、
  アイヌの人たちの主体的参画が重要と考える。

 〇 このため、道では、一昨年立ち上げた「官民応援ネットワーク」に
  北海道アイヌ協会にも参画をいただくとともに、
  道における啓発事業の実施に当たっても、アイヌ協会をはじめ、
  各地区のアイヌの人たちと連携しながら取り組んできているところ。

 〇 また、アイヌ協会では、
  本年10月に標津町で開催する「アイヌ民族文化祭」において、
  象徴空間開設に向けた普及啓発事業を実施するとともに、
  協会の会報誌に象徴空間に関する情報を掲載するなど、
  アイヌの人たち自らによる周知も進められているところ。

 〇 開設まで残すところ2年を切る中、
  道としては、アイヌ協会のこうした取組と連携しながら、象徴空間が
  「アイヌの人々による歴史・伝統・文化等の承継・創造の拠点」である
  といった、設置意義や目的などについて、
  アイヌの人たちへの周知を図るとともに、
  様々なプロモーション活動を展開し、認知度の向上を図ってまいる。

⑤ アイヌ新法について
次に、アイヌ新法について伺います。
国は、2020年にアイヌ新法の制定を目指しているとされています。
道や道民は、これをきっかけとして、アイヌ文化の保存と継承、そして北海道の強み、宝として観光振興や文化振興に務めなければならないと議論してきたところです。
私は、アイヌ文化振興法の中において生活向上が取り扱われることに異議を唱えるものではありません。私は、より文化振興に重きを置いた施策を振興すべきであると考えているものです。それは、アイヌ新法によって、より効果的に展開される政策としてあるべきであると考えています。
今後も、生活向上の改善は進み、アイヌの人たちの総数が減り続けていくことは容易に想定できます。
道のアイヌ政策の再構築や新法の検討においては、これまでを引きずるものなのではなく、未来志向で文化振興を全面に押し出すことによって、アイヌの人たちのアイデンティティの尊重は勿論のこと、特に北海道の元気の源として、日本国民として誇りとすることができる文化振興に比重を置いたものとなるべきだと信じています。

道は、道の政策の再構築について、国のアイヌ政策検討を踏まえて平成32年度までに検討するとしています。アイヌの人たち等と同じくする志の下で、何を目指し、国へどのように働きかけているのでしょうか。見解を伺います。

<答弁>
今後のアイヌ政策についてでありますが

 〇 我が国の先住民族政策の根拠となる総合的な法律の制定は、
  アイヌの人たちにとって永年の悲願であり、
  道としても、これまで、北海道アイヌ協会と連携し、
  その制定に向け、国に要望を行ってきているところ。

 〇 こうした中、先般の国の「アイヌ政策推進会議」において、
  座長である菅官房長官からは、
  「従来の文化政策や福祉政策から地域振興、
  産業振興にも軸足を置いて、アイヌの皆さんの自立を図るための
  立法措置を検討する」との方針が示されたところ。

 〇 道としては、国における立法措置の検討に際し、
  アイヌの人たちの意向が新たな施策に十分に反映されるよう、
  引き続き、国に強く働きかけるとともに、
  アイヌ文化の振興や理解促進をはじめとした、
  道の各施策についても必要な見直しを行うなどして、
  アイヌの人たちの民族としての誇りが尊重される社会の実現に向け、
  しっかりと取り組んでまいる考え。

<指摘>
最後に指摘をさせていただきます。
この質問を通して明らかにしておきたいことは、これまでの政策について、どうのこうのと議論をしたいのではなく、これからのアイヌ政策に対して、道が、どのような立ち位置で取り組んでいくことによって、日本国民として、北海道民として、私たちの暮らしの元気につなげていくことができるのかという点に尽きると思うのです。
これまでの景気浮揚策なども相まって様々に施策を展開してきた結果として、アイヌの人たちの生活向上は果たされてきたことは確実ですし、今後も実現させられていくことでしょう。
しかし、それは、生活向上の観点からより手厚い保護を求めていくことは、逆差別を生み出す段階にまでに至っていて、期待した施策効果が表れていることは、今回の実態調査からも読み取ることができるのです。
 それでもなお、アイヌ新法の制定を目指す理由は、アイヌ文化という北海道を中心として栄えた営みを私たちの強みとして、私たちの暮らしの元気につなげていく必要に迫られているからなのだと、私は考えています。
 それは、アイヌの人たちのみのためではなく、私たち北海道民の、日本国民としての新たな法律であることを求めていくことが欠かせない構成要件だと考えているからなのであります。
 環境生活部の皆さんには、これまでと、これからを意識できる立場を明確に示していただいて、多くの道民が誇りと思うことのできるように、アイヌ文化を活用した政策の展開を実現させていただきたいと強く願っていますし、アイヌの人たちにも、日々の生活を通して北海道の元気につながっていることが意識できるものとなるように、国の新法制定作業に対して関与して頂きたいと要請しておきます。